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3日目の朝、おそるおそる植木鉢をのぞくと、 ぐったりしたアゲハチョウがいた。 死んでしまった。 死なせてしまった……。 胸がしめつけられるように、息苦しくなる。 自分の現状に重ねて同情し、ヒロインを救うヒーロー気分で飼育して、 後悔したり、悲しんだり。 なんて身勝手なんだろう。 ため息をつく。 と、ぼくの息に反応して、アゲハチョウが羽をバタつかせた。 生きてる! 気持ちが浮き立ったが、脚が1本になった姿を見るのはつらかった。 やはり自然に放って、死なせてやったほうがよかったんだ。 ぼくはアゲハチョウをベランダのプランターに置いた。 風が吹きつけ、アゲハチョウが仰向けにひっくりかえった。 が、すぐに、もとの体勢にもどる。 手のひらにのせると、お腹をぐぐっと丸めて、体をよじった。 すごい。羽やお腹の筋力で体を動かしているんだ。 プランターに戻すと、アゲハチョウは風が吹くたび 仰向けになってはもとの体勢に戻った。 心なしか、室内にいたときより、生き生きしてるように見える。 体力は消耗するだろうけど、自然な環境に近いはず。 そのまま、アゲハチョウを外のプランターに放置したが、 どんどん風が強くなり、嵐の様相になってきた。 これも自然なんだと自分に言い聞かせたが、 あの無抵抗な姿で風にまかれていると思うと、じっとしていられなくなり、 結局、室内の植木鉢にもどしてしまった。 それから、アゲハチョウは、ほとんど動かなくなった。 時々、息を吹きかけると、羽をバタつかせる。 気がつくと、位置が変わっている。 触覚やストローがふるえる様子などでも、生存を確認した。 4日目も、アゲハチョウは生きていた。 ぼくはアゲハチョウをティッシュにのせて、ベランダに出た。 ゆっくり、ティッシュを上下させる。 ふわり、ふわりと、風になびくと、アゲハチョウは羽を軽く動かした。 ばかばかしい、 自己満足だとわかっていたけど、 ぼくは、アゲハチョウに少しでも飛んでいる気分を味わってもらいたかった。 5日目も、アゲハチョウは生きていた。 飛ぶことも、歩くこともできないのに、生き続ける。 残酷じゃないか。 見るのが、つらい。 こんな姿になったのは、ぼくのせい。 軽い気持ちで飼育を始めたのが、いけなかったんだ。 そう罪を認めたところで、償えない。 したいことができない状態で長生きして、幸せといえるのか? 少しでも長く生きられるよう願うのは、 ぼくの幻想を押しつけているだけなんじゃないか? 「もう、がんばらなくて、いいんだよ」 思わず、声をかける。 アゲハチョウを思って出た言葉なのか、自分がもらいたい言葉なのか。 生きてもらいたいのか、死んでもらいたいのか、わからなくなった。 そのとき、アゲハチョウがストローをのばして、土にさしこんだ。 土の養分を吸っている? ああ、そうか。 これが、アゲハチョウの本能なんだ。 生きるのに必要なものが近くにあるなら、摂取する。 生きる意義とか意味とか関係なく、 生きられるうちは、生きる。 それだけのことなんだ。 子孫を残すのが第一だけど、 できなくても、命を使いきるように生まれついている。 以前、まだ息のあるチョウが、アリに運ばれるのを見かけたが、 今のアゲハチョウと同じような状態だったのだろう。 弱った虫や死骸は他の虫や微生物に摂取され、分解されて土になる。 死んでもムダなく活用される、命の循環。 循環の中で、懸命に生きる姿から目をそらすのは、失礼なんじゃないか。 うだうだ考えていること自体が、高慢な気がしてきた。 アゲハチョウの生態を、見せてもらおう。 きちんと見送ろう。 こんなに感情が揺れ動くなんて、飼育をし始めたときは思いもしなかった。 でも、命あるものに関わるなら、相応の覚悟が必要なんだ。 まだまだ力が残っているように見えたアゲハチョウも、 昼を過ぎたあたりから、反応が弱くなっていった。 息をふきかけても、わずかに触覚とストローをふるわせるだけ。 このまま力尽きるのだろうかと考えていたら、 夕方、ヒクヒクふるえだした。 羽をびくつかせ、お腹をよじる。 けいれんをおこしている! と、あわてたが、 羽ばたいているつもりなのかもしれないと、思った。 いや、意識が遠のいているのなら、 せめて飛んでいる夢を見てほしいと、ぼくが願っただけだ。 そのふるえもだんだん弱くなり、夜中、アゲハチョウは静かに逝った。 胸の奥が乾いたように、ひりひりした。 ぼくが関わったことは、アゲハチョウにとっては迷惑だったろう。 人間とはちがう生き様を見て感動するのは、やっぱり人間のエゴだ。 ただ生きる。 そう感じたからといって、これからのぼくの人生に生かせるかどうかも、わからない。 とにかく、アゲハチョウが生まれ変わるなら、 次は飛べるよう生まれてほしいと思った。
半月後。 呼び鈴が鳴り、インターフォンの画面に巻き髪の女性が映し出された。 見覚えのない顔。 宗教の勧誘か押し売りか? 「はい」 やや構えて応答すると、 「お届け物でーす」 ドアを開けると、 レースの黒いワンピースを着た女の子がにっこり、ほほえんだ。 「わたしをお届けにあがりました〜」 「はあ?」 「わたし、アゲハで〜す」 つづく……かもしれない。 ※この物語は一部フィクションです。
by arisasaki
| 2015-05-08 08:00
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