
ここ最近、再話の仕事のため、名作を読み返しています。
あらためて読んでみると、発見の多いこと。
その最たるものが『あしながおじさん』です。
恵まれない孤児の女の子が、正体不明の紳士の援助により、
大学へ進学し、成長するシンデレラストーリーだと記憶していたのですが、それだけじゃなかったのですね。
それなりに酸いも甘いも経験したおばさんになると、
“あしながおじさん”の心理が見えるわ見えるわ。
援助をしている彼女が賢く、美しくなっていくのをうれしく思っていたうちは
よかったのですが、しだいに彼女に惹かれるようになってからは、立場が逆転。
彼女に好意を抱く男が出没する度にヤキモキし、
贈り物攻撃で自分の手の内にとどめておこうとします。
が、彼女は奨学金を得て、自立しはじめてしまい、
ちっとも落ち着いてはいられなくなるのです。
上流社会しか知らない“あしながおじさん”は、
上っ面でしか、人とつきあえなかったんだろうなぁ、とか、
お金による愛の表現の仕方しか、知らないんだなぁ、とか、
その不器用なおぼっちゃんぶりが、かわいく思えてしまいました。
(30代半ばの男性なんですけどね)
このあたりを、谷川俊太郎訳のフォア文庫版(挿絵は長新太)では、
佐野洋子さんがユーモアたっぷりに解説してくれます。
佐野さんの解説にはうんうん、うなずき、最後には笑ってしまいました。
この本は、佐野さんと谷川さんが恋人同士だったころに出版されたのかなぁ。
ともあれ、さすが名作。
表面にはない心理劇がすばらしいです。
目下、恋する女子は、主人公の生き方が恋愛必勝法として、参考になるでしょう。
男子の心をとらえて離さない、好奇心旺盛で、たくましくて、自由で、ユーモア精神があって、
自立した女性像がね。
おばさんになってから読み返すなら、
解説もおもしろい、フォア文庫版の『あしながおじさん』がおすすめです。